2021年8月28日
「諏訪の自然誌 植物編」(諏訪教育会、1981年)には、我が家から見える白岩岳にハイマツが生育していると記載されている。そのページには写真もつけられていた。矮性のゴヨウマツではなさそうだ。白岩岳の標高は2267mで、本州中部のハイマツが分布する山としては低いほうだ。グーグルの航空写真ではよくわからないので、見に行くしかない。
白岩岳へのアプローチは、釜無山から南へ尾根沿いを行ったほうが良さそうだ。林道の広場に車を止めたとき、ソウシチョウの地鳴きを聞いてしまった。2017年11月に釜無山に登ったときよりもササが茂っている。登山道は山頂近くまでほぼササ薮に覆われていた。クロジが飛び出す。メボソムシクイはさえずっているが、ウグイスはもう地鳴きだけ。朝露のついた薮を漕いだので胸から下はずぶ濡れで、長靴のなかも浸水している。
釜無山の山頂を過ぎてからはおもに尾根沿いの踏み跡を辿った。ピンクテープがありがたい。踏み跡のない場所はGPSで位置を確認しながら進む。時折、ひどい薮漕ぎがある。尾根には点々と寝屋の痕があった。標高2087m地点の岩場でチョウセンゴヨウの低木、束生したゴヨウマツの稚樹を見つけた。そして、3葉の葉をつけるアカマツも。サクラ属の種子が大量に入ったツキノワグマのフンもあった。初めて歩く山で踏み跡が消え、人はほとんど来ず、大型獣の痕跡のあるところは緊張感がある。険しい渓を遡行しているような気分。
尾根歩きは西風が心地良い。進行方向の左手には甲斐駒ヶ岳や鋸岳が、振り返ると八ヶ岳がよく見える。「諏訪の自然誌 植物編」にあった、スルガヒョウタンボクと思われる木を見つけたが先を急ぐ。ウソの幼鳥が親鳥から食物をもらっていた。タカネコウリンカの花はほとんど終わっている。目につくのはキオンとトリカブト類の花ぐらい。
釜無山から3時間30分で白岩岳に着いた。思ったよりもアップダウンがあった。ホシガラスが3羽、南へ飛ぶ。山頂に着いてすぐ、ハイマツ群落が目に入った。よくこんな場所に残っているものだ。球果はついていないし、実生もないため、繁殖はしていないようだ。ハイマツの下には、初めて見るミヤマビャクシンが生えていた。イブキジャコウソウの葉が小さく、とても矮性だ。30分ほど滞在し、来た道を引き返す。
このハイマツはおそらく、数百年前にホシガラスが貯食したものだろう。南南東方向の山にはハイマツが生えているので、そこから運ばれて来たと思われる。きょうは、中川上流の3連堰堤がずっと見えていた。