2015年12月23日
ホシガラスはマツ科植物の種子を主食とし、貯食をする。そして、貯食行動を通してそれらマツ科植物の分布に何かしらの影響を与えている。今年の秋は、とにかく本州中部のいろいろなホシガラスの生息地を見て廻り、どんなマツ科植物が生育しているのかを調べてきた。現時点で考えている、種子散布をめぐるホシガラスと五葉のマツ類の関係をまとめておきたい。
ホシガラスが食物にするのは、ハイマツ、ゴヨウマツ(ヒメコマツ・キタゴヨウ)、チョウセンゴヨウなどの種子だ。晩夏から秋にはおもに亜高山帯針葉樹林内に種子を貯食する。貯食した種子は冬から初夏にかけて利用し、ヒナにも与えていると考えられている。
ハイマツ帯を有する山岳に生息しているホシガラスは、ハイマツの種子を亜高山帯に運び下ろす。富士山など標高2000m以上の山でもハイマツ帯のない・あるいは非常に少ない山岳のホシガラスは、ゴヨウマツの種子を利用していることが多い。一部の地域では、ゴヨウマツとチョウセンゴヨウの両方を利用する。普段の行動圏内にゴヨウマツが少ない場合、遠方まで飛翔して種子を集めに行く。遠方まで飛翔しないと種子を得られない山岳では通常、山地帯から亜高山帯に種子を運び上げることになる。
貯食期のホシガラスの行動をまとめると、大きく3つに分けられる。1つは、ハイマツの種子を亜高山帯に運び下ろすもの、2つ目は行動圏内(亜高山帯)やその周辺のゴヨウマツやチョウセンゴヨウの種子を集めるもの、そして3つ目は遠方まで飛翔し、山地帯のゴヨウマツなどの種子を亜高山帯に運び上げるもの。植物にとっては、ホシガラスの飛翔距離が長いほど種子を遠くに運べることになる。1つ目の貯食行動は、ハイマツの更新(や分布拡大)には貢献しないかもしれない。なぜなら、種子の多くは亜高山帯に運ばれるからだ。しかし、一部はハイマツ帯やその周辺にも貯食され、それらが発芽したと思われる稚樹もけっこう見られる。高山帯への貯食は、ハイマツの更新に寄与する。2つ目と3つ目は、ゴヨウマツとチョウセンゴヨウの種子散布に貢献している。林道や登山道の林床には、食べられずに発芽したと思われる両種の束生した稚樹が多数見つかるからだ。ところで、林床に貯食した種子は野ネズミやニホンリスなどの哺乳類に横取りされることがある。これに対してホシガラスは、どんな対策を取っているのだろうか。
3種の五葉のマツ類の内、チョウセンゴヨウの種子は飛び抜けて大きい。冬期の食物や子育てに必要な量の種子を集めるとき、小さなハイマツやゴヨウマツの種子を多数貯食するより、大きなチョウセンゴヨウの種子を選択的に利用したほうが労力は少なくてすむはずだ。チョウセンゴヨウの多い地域(本州中部の山岳)のホシガラスの貯食行動は、どうなっているのだろう。また、ハイマツとキタゴヨウは交雑することが知られている(ハッコウダゴヨウ)。この種子も当然、ホシガラスによって運ばれる。
山地帯から亜高山帯上部に連なる山道を歩いて、マツ科植物の分布状況を確認して、秋のホシガラスの行動を思い描く。いまやるべきことは、積雪期にそこに行き、ホシガラスの採食行動を観察することである。
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左からハイマツ、ゴヨウマツ(翼あり・なし)、チョウセンゴヨウ