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ことの起こり

2018年8月25日

松本の市街地は晴れていたのに、高山帯の調査地は暴風雨だった。気温13度。イタドリが紅葉し、ウラジロナナカマドの実が色づき始めた。風雨はともかく、霧が濃くて視界がほとんどない。不調続きの今年の乗鞍岳の調査。1時間ほど粘るが、ホシガラスは確認できなった。痕跡を探すために標高を下げる。ハイマツ帯の下限で、岩の上に1個だけホシガラスの食べ跡があった。さすがに貯食行動は始まっている。その後、飛翔するホシガラスを見た。

山小屋に入り、ストーブで体を温める。正午過ぎに日が射し、青空が見えた。高山帯に向かう数羽のホシガラスが頭上を飛ぶ。それを追ってふたたび調査地に行く。が、高山帯の天気はあまり変わっていない。視界が良くないので、ハイマツの種子の成熟度を確かめることに。過去2年間は低標高域から高標高域へと順に種子が熟していった。ところが今年は、低標高域のハイマツの球果はまだ緑色なのに、それよりも標高の高い場所では茶色になっているものがあった。一般的には、球果が茶色味を帯び始めると種子は熟す。低標高域の緑色の球果の種子がどうなっているのかは、種子を取り出してみればわかることだ。ハイマツの球果の採集許可は取っているので、3つの標高帯で球果を採集して成熟度を確かめた。その結果、球果の色と種子の成熟度はやはり関係があり、緑色のものはまだ熟していなかった。つまり標高は関係なく、球果の色が種子の状態を表していたのだ。球果の採集時に気づいたのだけど、茶色になり始めたものは離層が形成されていた。鱗片も指で簡単に取れる。こうしたことも、ホシガラスとの共生に欠かせない特徴である。

ハイマツの種子がいつ熟すのかは、雪解けの時期に起因すると考えられる。雪解けの時期は年によってばらつきがある。そのため、今年は低標高域から順に熟していない。雪解けの状況がハイマツの種子の成熟する時期に影響し、ホシガラスの貯食行動を変化させる。そしてそれは、ハイマツの遺伝的多様性にも関係する可能性がある。雪解けの時期は、春から夏の雨量に左右されると聞いたことがある。乗鞍岳3年目にして、このような繋がりの輪郭が見えてきた。